A中学校区の小学校2校と中学校1校は、これまでも近隣の県立B支援学校との交流及び共同学習を行っている。しかし、これまでの成果や課題については整理されていなかった。「障がい者理解教育」を本中学校区の特色ある活動としていくため、平成29年度は、これまでの取組やその成果や課題を整理し、それを生かした「障がい者理解教育全体計画」を作成した。それを踏まえた平成30年度の取組から、今後の障がい者理解教育について提案する。
1.目的
平成29年2月のユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機とし、様々な心身の特性や考え方をもつ全ての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合う「心のバリアフリー」を実現するために、政府が行うべき施策を「ユニバーサルデザイン2020行動計画」として取りまとめられた。
本市A中学校区の小学校2校と中学校1校(以下、拠点地区小中学校)は、これまでも近隣の県立B特別支援学校(以下、B特別支援学校)との交流及び共同学習を行っている。しかし、これまでの成果や課題については整理されておらず、市内の小中学校にも周知されてこなかった。そこで、拠点地区小中学校の活動を「障がい者理解教育」として整理し、その活動内容や成果・課題について市内の小・中学校に周知することで、「障がい者理解教育」「心のバリアフリー」の推進を図る目的で事業を行なった。なお、本発表に際し、個人情報における適切な取り扱い及び、研究上の倫理的配慮を行い、本人・保護者・所属機関・関係機関の同意を得ていることを申し添える。
2.方法
1)心のバリアフリー運営協議会の設置
・拠点地区小中学校の代表、指導主事、大学教授で構成した協議会を設置し、それぞれ別々に計画していた「交流及び共同学習」の目的や内容、評価について再確認した。
2)B特別支援学校との交流及び共同学習
・拠点地区小中学校それぞれが、B支援学校との交流及び共同学習を年2回ずつ計画した。
3)「心のバリアフリー」学習の企画
・B特別支援学校との交流及び共同学習だけでなく、障がい者理解や心のバリアフリーをさらに推進させるために、新たに以下のような学習会等を企画した。
○車いすバスケットボール体験交流
・拠点地区中学生が車いすバスケットボールチームの選手の指導により、車いすバスケットボールを体験した。
○パラリンピアン講演会
・拠点地区小学校の4~6年生と、拠点地区中学校全校生徒、教職員、保護者がパラリンピアンの講演を聞いた。
○心のバリアフリー講演会・座談会
・障がい者理解教育を研究している大学教授の講演会、障がいのある子どもをもつ母親を含めた座談会を開催した。教職員、保護者だけでなく、一般市民も参加した。
○障がい者アート展示会
・県内NPO法人の協力のもと、拠点地区小中学校で、障がい者の絵画作品を2週間ずつ展示した。
4)リーフレットの作成
・「障がい者理解教育」の内容について周知できるように、教育委員会で「心のバリアフリー障がい者理解学習リーフレット」を作成し、市内全小中学校に配布した。
5)障がい者理解教育全体計画の作成
・「障がい者理解教育」を教育課程に取り入れ、どのように進めていくのかが分かりやすいように、「心のバリアフリー障がい者理解教育全体計画」を作成し、市内全小中学校に配布した。また、市内の共有クラウド上に保存し、電子ファイルをいつでも利用できるようにした。
6)理解啓発プログラムの作成の作成
・特別活動や道徳、総合的な学習の時間等に利用できるように、「心のバリアフリー障がい者理解啓発プログラム」を作成し、市内全小中学校に配布した。また、市内の共有クラウド上に保存し、電子ファイルをいつでも利用できるようにした。
7)アンケートの実施
・事業の成果と課題を分析するために、事業実施前と各年度末にアンケートを実施した。対象は、拠点地区児童生徒、教職員、保護者、拠点地区以外の抽出小学校1校の児童生徒、抽出中学校1校の児童生徒、他市障がい者理解教育推進校の児童生徒と保護者。
3.結果
1)心のバリアフリー運営協議会の開催
・「交流及び共同学習」の目的や内容、評価について再確認することによって、発達段階に沿った目的や評価を合わせることができた。また、インクルーシブ教育を研究している大学教授をメンバーに加えたことで、他県や外国の障がい者理解(心のバリアフリー)教育の現状や、取組について情報を得ることができ、事業に生かすことができた。
2)B特別支援学校との交流及び共同学習
・ゲームやスポーツを企画する際に、障がいや障がいのある児童生徒の実態について調べたりすることを通して、障がい理解、障がい者理解が自然と行われていた。
3)「心のバリアフリー」活動の企画
○車いすバスケットボール体験交流
・車いすに乗っている人は不自由な人という考えは思い込みだったという感想が多く出された。拠点地区中学校だけでなく、他中学校でも開催された。
○パラリンピアン講演会
・事後学習での感想には、「信頼される人間になりたい。」「皆を笑顔にすることができるような人間になりたい。」など、自分自身の生き方について考えていることが表れていた。この講演会後、中学校の生徒会では、障がいのある人への募金活動を始めた。
○心のバリアフリー講演会・座談会
・約250人が参加した。市内教頭会研修一般参加者にも広く呼びかけ、市及び教育委員会が障がい者理解を地域に広く推進していることを周知できた。
○障がい者アート展示会
・細かい描写や華やかで独特な色づかいに児童生徒や教職員、保護者が驚いていた。また、その色づかいや描写の仕方を真似したいという感想も多く出された。
4)リーフレットの作成
・拠点地区小中学校の取り組みが市内の小中学校に周知された。このことにより他校から障がい者理解学習を行いたいという相談も受けた。
4)障がい者理解教育全体計画の作成
・アンケート結果において、拠点校は「障がいのある人が身近に生活していることを知っている」「障がいのある人と自分との共通点について知っている」「障がいのある人と自分との違いについて知っている」の割合が高まった。その要因として「障がい者理解教育目標」と「目指す児童像」を視覚化・共有化したことが挙げられる。ねらいが明確化されたことで、児童も教師も体験だけではない目標の達成を目指した有意義な活動ができたと考えられる。
5)理解啓発プログラムの作成の作成
・B特別支援学校教育専門監が、プログラムを使って市内小学校で障がい者理解学習を実践した。市社会福祉協議会主催の障がい体験学習の事前学習として行なっている。
6)アンケートの実施
・教職員や一般の方のアンケートでは、障がい者理解の推進には「大人の理解の方が必要」「高齢者の理解が必要」という意見が多かった。
・B特別支援学校のアンケートでは、「心のバリアフリーという言葉を聞いたことがない」と回答した保護者が半数以上いることが分かった。
・保護者アンケートでは、「障がいや障がいのある方について話題にする内容」について、自校の特別支援学級児童生徒について触れていた回答は、ほぼゼロであった。
・障がいのある子どもの母親への取材や特別支援学校児童生徒の保護者アンケートから「かわいそう」という発言に対して差別や偏見を強く感じていることが分かった。
4.考察
年間を通してこの事業に携わり、拠点地区小中学校とB特別支援学校の児童生徒や教職員と関わることで、この事業の重要性と教育委員会が率先して継続していく必要性を強く感じている。
本市では「心のバリアフリー」という言葉もまだまだ周知されていない。教育委員会は、各研修会や学校訪問を通じて、作成したリーフレットや理解啓発プログラムを紹介し、利用を勧めていくことが必要である。また、学校通信及び学級通信等を利用し、各校における交流及び共同学習の内容を保護者等にも積極的に伝える必要性を話していくことが必要である。
児童生徒アンケートから、障がい者理解学習の回数が多いほど、障がい者に対する偏見は少なくなっていた。また、障がい者と交流することで、自分のよさや可能性にも気づくことができていた。つまりこの事業が、新学習指導要領前文に記載されている「一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の作り手となることができる」のに大いに役に立つということである。
また、障がい者理解教育と心のバリアフリーの推進は、児童生徒に加え、大人にも必要であることも分かった。今後も講演会や学習会を継続し、開催については、市のホームページ等で広く呼び掛けていき、幅広い世代の理解を推進していく必要がある。
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